社会福祉士兼ライターの紙月日記

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福祉のはなし

パワハラ防止指針、実態は抜け穴だらけ!? 厚労省の指針案の問題点を解説!

今年(2019年)5月、職場でのパワハラを防ぐための施策を定めた
「改正労働施策総合推進法」(パワハラ防止法)が成立しました。
法改正を受けて、最近になって「どんな行為がパワハラに当たるのか」また「どんな行為はパワハラに当たらないのか」の具体例を盛り込んだ指針案が示されましたが、
その内容が企業側にとっての抜け穴だらけなのでは? といった指摘が相次いでいます。

今日はこのパワハラ防止の指針案について解説します。

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そもそも「労働施策総合推進法」って?

本日テーマとする「改正労働施策総合推進法」についてですが、
もとをたどれば、働き方改革推進のために「労働施策総合推進法」なるものが18年に成立。
長時間労働の是正、非正規雇用労働者の待遇改善、育児・介護と仕事の両立――
などの対策を進めることが盛り込まれました。

その法律が改正されて今回、職場でのパワハラ対策についての施策が定められたわけですが、
実は改正法には、
「具体的に何がパワハラにあたって、どうやって防ぐのか」
などの詳細は書いていません。

まずは条文を見てみましょう。

改正労働施策総合推進法 30条の2
事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

つまり、
(1)職場で行われる優越的な関係を背景にした言動
(2)業務上必要な範囲を超えたもの
(3)労働者の就業環境を害するもの

を満たすものをパワハラと定義したうえで、会社側には「必要な体制の整備その他の必要な措置」を求めていますが、
どんなものが「必要な措置」なのかについてははっきりとしていないわけですね。

ちなみに、改正法の条文は以下のようにつづきます。

30条の2の2
事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実 を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

30条の2の3
厚生労働大臣は、前二項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施 を図るために必要な指針(以下この条において「指針」という。)を定めるものとする。

まとめると、
・事業主(会社側は)パワハラを相談したことなどを理由に不利益な取扱をしてはダメ
・国は、事業主がしなければいけない措置の具体的な内容について、改めて指針を作る

ということですね。

そして、その指針案が厚労省の労働政策審議会(労政審)の分科会で示されました。
ところが、指針案について色々な団体が問題点を指摘しているんですね。
前置きが長かったですが、ここからが本題です。

パワハラ防止指針案の中身をチェック!

指針案については、厚労省がこちらで公開しています。
リンク切れ用に、PDFファイルはこちら

指針案は、労政審の分科会で10月に素案が示されて、そこから内容を修正したものが、11月に正式に指針案として示されました。
指針案の中で、パワハラをどう説明しているのか拾ってみましょう。

先ほども触れたように、法改正によってパワハラの定義は
(1)職場で行われる優越的な関係を背景にした言動
(2)業務上必要な範囲を超えたもの
(3)労働者の就業環境を害するもの
とされたわけですが、この指針案では、この定義に使われている文言をより具体的に説明しています。

では細かく見ていきましょう!

「優越的」の定義に異論あり!

まず、定義の(1)にある「優越的な関係を背景とした言動」とは何を指すのか。
指針案では、「優越的な関係」の中身として、
仕事をするにあたって、
労働者が「抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるもの」
としています。

難しい単語が多くてわかりづらいですが、
要は「優越的な関係」とは「抵抗や拒絶ができないだろう関係性」と説明しているということですね。

これについて、労働問題に取り組む日本労働弁護団が、緊急声明でこう批判しています。

指針案では、パワハラを定義づける「優越的」とは、「抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係」としている。
しかし、「抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係」とは、大きな力関係の差を必要とする定義であり、単なる同僚同士の場合にはもちろん、場合によっては上司と部下の関係であってもパワハラから除外される危険性がある。また、労働者がパワハラを訴えた際に、「抵抗または拒絶できない関係ではない」「その蓋然性は高くない」からパワハラには当たらない、との使用者からの言い訳や反論を許すことになる。

従来の法律的な解釈では、「優越的」とはもっと広い概念だとされています。
パワハラをしてきた相手が上司である場合はわかりやすいですが、
たとえ同僚や部下だったとしても
ものすごい専門知識がある部下が、まったく畑違いの分野から来た上司に対して、
上司がまったくわからないであろう専門知識を振りかざしていびり倒した場合、
「部下の側が優越的な地位にあった」と認められる
例がありました。

ところが、今回の指針案にのっとれば、こういう「部下⇒上司」に対するパワハラは
「普通に考えれば、上司なんだから部下に対して抵抗することなんて余裕でしょ?」
として、パワハラだと認定されなくなるおそれがある、と指摘しているんですね。

実際、この指針がそのまま通ると、こういうケースでパワハラ認定を求める場合には
「抵抗や拒絶ができなかったこと」を立証する必要が生じるでしょうね。

「パワハラに該当しない例」がとても危ない

指針案を批判する人たちが特に強調しているのが、
指針案が示す「パワハラに当たらない例」がひどい
ということです。

こういうハラスメントに関する線引きをする場合、
「〇〇の行為はハラスメントに当たる」と示すことは多いのですが、
「〇〇の行為はハラスメントに当たらない」と例示することはあまりありません。

だって、どんな行為がハラスメントに当たるのかはケースバイケースで、
同じ行為でも、時と状況が変わればハラスメントに当たることは普通に考えられるからです。

それなのに、
今回の指針案には「パワハラに当たらない例」がめちゃくちゃ書き込んであります

たとえば。

指針案が示す「パワハラに該当しない例」の抜粋

「遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をすること」

「懲戒規定に基づき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させるために、その前に、一時的に別室で必要な研修を受けさせること」

「労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減すること」

これ、ぼーっと見てると「別にいいんじゃない?」と思うかもしれませんが、
そんなことはありません。

「再三注意しても改善しない労働者に一定程度強く注意すること」
がパワハラに当たらないということは、
「労働者に落ち度があればパワハラしてよい」と言っているのと同じです。

パワハラでトラブルになるようなケースで、確かに労働者側にも問題があることだってあるかもしれませんが、それとパワハラは別問題です。
スポーツで、選手の態度が悪いからといって体罰が容認される余地がないのと同じことですね。

さらに、「一時的に別室で必要な研修を受けさせる」って、これがOKだったら、
退職に追い込むために別部屋でひたすら単純労働をさせる、いわゆる「追い出し部屋」が許されることになります
企業側は「追い出し部屋」の口実はだいたい「一時的な研修だ」と説明するわけですから。

「能力に応じて業務内容を減らす」ことだって同様で、
仕事をなくして退職に追い込もうとする行為が許されることになりかねません
企業側にとって「これは能力に応じた措置だ」という言い訳ができてしまうことになるんです。

指針案の内容は企業側が押し切った結果?

指針案を見ていると、労働者側と企業側でいえばどうも企業側に有利な内容になっている感じが強いです。

そもそもこの「パワハラに当たらない例」を指針案に盛り込んだのは
企業側が「線引きがわからなければ社員への指導ができない」と強く求めたからだとされています。

企業側の代理人として労働事件を手掛ける弁護士たちが、パワハラをめぐって損害賠償になったケースを分析して
「これは損害賠償になっていないからパワハラには当たらない例と言えるでしょう」
なんていう形で「パワハラに当たらない例」が出来上がっていった、
なんて噂話も聞きました。

指針案が一度修正されたことはすでに触れましたが、
その修正された内容は小幅なものにとどまっていますから、
結局は企業側の意見が強く、労働者側が押し切られたと評価できるかもしれません。

指針案は年内にも正式決定される方針

今後は、11月に示された修正指針案をもとにパブリックコメントをして、厚労省は年内に指針を固める方針だそうです。

実際にこの「パワハラに当たらない例」が正式なものとして採用された場合、
現場には結構な影響が出ると思います。
特にパワハラで労災認定を受けようとする場合に、ハードルが今より上がるおそれは強くあります。

これからの動きがどうなるのか、引き続き注視したいと思います。

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